性交中の潤滑油、江戸のローション「つばき」【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語56
我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。
■つばき
つば、唾液のこと。
ローションなどがなかったため、つばを潤滑剤として用いた。女色でも男色でも、唾液を潤滑剤として用いるのは一般的だった。
図は、僧侶が若衆とのアナルセックス(肛門性交)に先だち、手で唾液をすくっているところ。手にたらした唾液を、陰茎に塗り付けるのだ。

【図】つばきをタップリつけて(『馬鹿本草』磯田湖龍斎、安永七年、国際日本文化研究センター蔵)
(用例)
①春本『葉名志那三話』(勝川春章、安永六年頃)
男が女を破瓜するところ。
恥ずかしがりて、いやがれば、せんかたなく、つばを雁先(かりさき)へよくつけて、玉門におもむかせ、少しずつあいしらえば、
「ああ、痛い、痛い」
と小声にて乗り出るを、ぐっと抱きしめ、
雁先は、亀頭のこと。
②春本『艶図美哉花』(勝川春潮、天明七年)
嫌がる女を破瓜する場面。
頭(かしら)は入らんとするに、股をすぼめて乗り出るを、肩を抑えてようよう三分一ほど入りしが、あまり痛がるゆえ、そと抜きて、また、つばきたっぷりとつけて、入れかけしに、今度はぬるぬると半分ほど入りし魔羅、
「頭」は、亀頭のこと。
③春本『腎強喜』(勝川春章、寛政元年)
女は熟睡している。男は女の寝巻の裾をまくり、
「ああ、妙な開(ぼぼ)だ。目のさめぬように、つばきをたんと付けて、ぬるぬると入れてやろう」
④春本『開談夜之殿』(歌川国貞、文政九年)
男が指で、女の陰部を、
毛ぎわよりなでおろし、指へつばをつけて、中指の腹にてさねがしらをこき上げて、空割のとなりの、泡壺のようなところ、少し力を入れて、のの字を書き、またこきおろしては、玉門の中へ指二本を入れ、
ここでは、つばきではなく、つばと言っている。
⑤春本『天野浮橋』(柳川重信、天保元年)
男が陰間と肛門性交をするに先立ち、
手につばきをつけ、一物(いちもつ)の雁先へくるりと塗り回し、ぐっと尻を持ち上げ、肛門の口にもつばをつけて、一物を握りあてがい、足を腰に打ちかけ締め付けるゆえ、ぐいと押し込めば、ひょろりと雁先入ると、そろそろ腰を使えば、しわりしわりと締める心地よさ。すかり、すかりと使えば、根までぐっと入る。
陰茎にも肛門にも、つばきをつけている。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」
現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。