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石好き集まれ! 「古すぎる塔」と「多すぎる塔」の2種目で圧倒してくるお寺 石塔寺/滋賀県東近江市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第15回】


津々浦々の神社・仏閣を訪ね歩くことを趣味にしているライトノベル作家の森田季節さん。全国に約16万もあるという神社・仏閣の中から、知見を生かしたマニアックな視点で神社・仏閣を紹介! あなたをめくるめく寺社探訪の旅に招待します。興味を持った方はぜひ現地に訪れてみよう。


 

石塔寺の入り口。大きな下馬の石碑が目を引く。階段も下馬碑も石造り。撮影:森田季節

■人生で見たことのない光景に出会える場所

 

 寺社を巡っている関係上、石造物への関心も一般の人よりは高いです。もちろん各地を石造物の取材のために回ってる人にはまったく勝てませんし、これは鎌倉時代のものだとか室町時代の様式だとかいったものは石を見てもわからないレベルなのですが……。

 

 おそらく「石造物って何なんだ」と思われた方がいると思うのでもう少し具体的に書くと、宝篋印塔(ほうきょういんとう)とか五輪塔(ごりんとう)とか層塔(そうとう)とかいった石でできた塔と石灯籠とか板碑(いたび)とか石仏(せきぶつ)をまとめた概念です。関東でよく目にする江戸時代の庚申塔(こうしんとう)も石造物ですね。それから石鳥居もそうですね。石造物は出羽三山供養塔とか田の神様など特定の地域に多いものなど地域性もあるので、全国を回っているとなかなか楽しいです。

 

 そして、世の中には石の塔が数えられないぐらい集まっていることで知られたお寺もあります。その名もまんま石塔寺(いしどうじ)と言います。

 

 境内に入ると、石段の横などに五輪塔などが置かれています。寺の名前のアイデンティティを守ってるなと思いながら階段を登りきって平坦なエリアに出ると、おそらく人生で見たことのない景観が広がっています。

奈良時代前期の作とされる三重の石塔。国指定の重要文化財撮影に指定されている。撮影:森田季節

 まず中央の巨大な石の塔が視界に入るかと思います。こちらは特殊な形をしていますが、それは時代が古すぎるせいです。石造層塔というカテゴリーでは日本最古の奈良時代前期のものです。高さは約7メートル半ですが、こちらも文化財になるような古いものでは日本最大です。

 

 もちろんこの巨大な塔がお寺の名前の由来でしょうし、さすがに日本最古の塔があることぐらいは参拝する前から知っていました。ただ、現地に行って感じたのはその巨大な塔の存在よりも、その塔を囲む無数の石造物の迫力でした。たとえとして適切かわかりませんが、大規模なドームのライブを観客が全方位から見ているーーそんな印象を受けました。小型の塔は、地元の人が供養のためなどに作ってもらったものでしょう。そういった信仰が地層のように積み重なって、塔だらけの境内という独自の景観が生まれたわけです。まさに何百年規模の信仰の力としか言いようがないものを見せつけられたわけで、そりゃ圧倒もされますよね。

 

石造物の群れに圧倒される。撮影:森田季節

 石造物に興味のある人は少数派でしょうし、そんなのを見て何が面白いんだと言われると答えに困るのも事実なので布教する気もありません。ただ、興味がない人でも数える気がしないほどの石造物を前にした時(とある本には、「何万ともいわれる石仏や五輪塔」と書いてありました)、よくわからない感動を覚えるはずです。数で圧倒といえば五百羅漢(ごひゃくらかん)で有名な寺などは各地にありますし、あれはあれでいいものですが、そういったものとは別格の空気感です。

 

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過去記事

森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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