「ガザの人は私たちと同じ」体験を証言行動への一歩に…大阪赤十字病院の川瀬佐知子看護師
完了しました
プラネタリウムのような半球型のドームシアターに、人道危機に直面するパレスチナ自治区ガザの様子が映し出される。
2023年10月、イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まり、ガザでは多くの住宅や学校が破壊された。映像では、ガザ北部の病院で働いていた大阪赤十字病院(大阪市天王寺区)の看護師川瀬佐知子さん(46)が語る。

13日に開幕する大阪・関西万博で、日本赤十字社が運営する「国際赤十字・赤新月運動館」の展示だ。
ガザ保健当局によると、戦闘で5万人以上が死亡している。川瀬さんは、昨秋に行われたシアター映像の収録でこう語った。「ガザの人たちは、みんな同じ人間で、私たちと同じ普通の生活を送っていたのです」
大阪府出身。高校時代に留学したブラジルで、スラム街や路上で暮らすストリートチルドレンを間近に見た。看護師として国際活動に携わりたいと、00年に大阪赤十字病院に入った。
08年、海外で医療支援に当たる日赤の国際要員に登録。ジンバブエでのコレラ救援事業や、中米ハイチでの地震災害救援、バングラデシュ南部の避難民医療支援など、18年までに7回の海外派遣を経験した。

ガザとの関わりは、22年7月に始まった。パレスチナ赤新月社が運営するアルクッズ病院への医療支援として、看護の手順書の作成を、オンラインで手伝った。
血圧測定、酸素投与、床ずれ予防など約15種類の手順書を完成させた。現場の経験や勘に頼り、統一した対応ができていなかったからだ。23年7月から現地に居住し、実技講習を始めた。
パンを買えばサービスしてくれるなど人々は人情味にあふれていた。「突き抜けるような青空と、平和な街」。それが最初の3か月間の印象だった。
10月7日早朝、ロケットが打ち上がる音が鳴り響いた。テレビをつけると、ハマスによるイスラエルの都市への攻撃が映っていた。赤十字国際委員会の指示で、車で避難することに。途中、イスラエルからの爆撃で隣の建物が破壊され、破片が飛んできた。間一髪で直撃を免れた。
病院に残った職員から伝えられる様子は緊迫化していた。避難者や負傷者であふれている――、つらくなる内容ばかりだった。作り上げた手順書も、手当ての前提となる水などが断たれ、実践できなかった。
川瀬さんは10月中旬にガザ南部へ移り、11月1日にはエジプトに出国。病院は11月中旬、医療機能を停止した。出国前日、病院に残る看護師から「僕たちは本当にミゼラブル(惨め)だ」と電話越しに言われた。
「ガザの人たちにできることは何なのか」。帰国後、自問しながら、学校などで体験を語ってきた。
万博での証言を提案され、二つ返事で引き受けた。「国籍や年齢、考え方が異なる人たちが集まる。そこで、思いを届けることが自分の果たすべき役割だ」
川瀬さんは、苦しんでいる人たちを救いたいという人々の思いを結集したいと考えている。実際、20年前の愛知万博では、戦争や災害のリアルな姿を伝えた展示が注目され、赤十字のパビリオンに予想の3倍を超える47万人が来場した。
「人を救えるのは、人しかいない。証言や展示を見て、誰かのために行動する一歩を踏み出してほしい」
(大槻浩之)
パレスチナ、イスラエルそれぞれが展示
パレスチナ赤新月社は、アルクッズ病院が機能を停止した後も野外病院を設立し、患者搬送や救援物資の配布などを行っている。3月には、救助に向かう救急車が攻撃を受けて隊員8人が死亡するなど、これまでに30人が犠牲となっている。
万博にはパレスチナ、イスラエルが、それぞれ参加する。複数の国・地域が出展する共同館に展示ブースを設ける。公式ガイドブックによると、パレスチナは歴史、文化や未来への展望、イスラエルは文化や国の最先端技術を展示する。
「EXPO