あんパンも食パンも、もはや日本の味
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NHK連続テレビ小説、通称朝ドラでは現在「あんぱん」を放送中だ。「アンパンマン」の生みの親である漫画家やなせたかしさんと妻、

やなせたかしならぬ柳井
「美村屋」のモデルは、現在も銀座に店を構える銀座木村屋だろう。あんパンを生んだ店として名高い。読売新聞では1909年(明治42年)7月13日朝刊の「商店訪問記」という連載の第58回で、木村屋総本店を紹介している。
〈イヤにパン通を

木村屋は創業1869年(明治2年)。当初は東京・芝に「文英堂」というパンの専門店を出し、74年(明治7年)に銀座4丁目に移転。この頃、あんパンを開発した。2002年(平成14年)2月5日夕刊マネー面の連載「しにせ探訪」の木村屋総本店の回に〈「何とか日本人好みのパンを」と試行錯誤を重ねた結果、あんとパンの組み合わせを思いついた。パンにも趣向を凝らし、コメとこうじで培養した独自の酵母による「酒種あんパン」を完成させた〉と説明されている。
あんパンは、まもなく広く普及したようだ。1909年7月26日朝刊の、横浜市の山林で2歳くらいの捨て子が見つかったという記事の中にも、保護された子が、あんパンを与えたら喜んで食べたというくだりがある。
以後、ジャムパン、クリームパン、カレーパンなど、さまざまな菓子パンが開発され、いずれも定着して、今も親しまれている。ジャムパンは木村屋、クリームパンは東京・新宿の中村屋、カレーパンは東京・森下のカトレア(当時は名花堂)がそれぞれ元祖というのが定説だ。
1969年(昭和44年)7月10日朝刊婦人と生活面の「くらしの知恵」欄〈お米の国に あんパン革命 爆発的な売れゆき〉は、あんパンを中心に菓子パン普及の歴史を振り返る記事。菓子パンは日本独特のものであるとした上で、〈コメが主食の国なのだから無理もない話だが、未開の分野だからこそ、外国にない菓子パンを生み出す日本人独特の知恵が働いた〉と分析し、柳田国男が指摘した〈明治以降の日本人の食べ物に対する好みが「暖かく」「甘く」「やわらかく」というぐあいに変わってきたこと〉や、和菓子の伝統の影響も指摘している。
軍の糧食として開発

パンそのものを日本に持ち込んだのは、戦国時代のポルトガル人と言われる。鉄砲伝来と同時期というわけだ。そして、本格的に日本でパンの製造が始まったのは江戸時代の末期。徳川幕府の韮山代官、江川
〈韮山反射炉の築造で知られる坦庵は1843年4月12日、家臣に命じて代官屋敷の江川邸(国重要文化財)でパンを焼き上げたとされる〉〈なぜ、坦庵はパンを焼いたのか。江川家史料を管理する公益財団法人の江川文庫は「背景には、緊迫した外交情勢がある」と指摘する。アジアに進出する欧米諸国との衝突に備え、坦庵は大砲を鋳造する反射炉と、東京湾の砲台「品川台場」を築き、兵士の携帯食となる「兵糧パン」を製造した〉〈日々の製造は私塾「韮山塾」の塾生が行い、帰郷後などにパン食を広めた〉
つまり、軍の糧食として開発されたというわけだ。

パン食普及協議会が運営している「パンのはなし」というサイトに、同会などパンに関わる業界団体が1970年(昭和45年)に発行した
「パンの明治百年史」
という本が公開されている。900ページ近い膨大なもので、パンが日本に広まった経過が詳細に記されている。これによると、明治初期には外国人居留地や外国人向けホテル、留学経験のあるエリートたちなどが発信源となったようだが、軍隊でもパン食が採用された。白米食の普及とともに大流行した
〈兵士は
脚気の原因がビタミンB1欠乏であることが突き止められたのはだいぶ後のことだが、対策としてパン食が有効であることがわかり、軍の食事となった。
「パンの味が、やっとわかってきたのでしょう」
やがてパンは一般家庭の食事としても普及し定着していく。戦後の学校給食で主食として提供された影響も大きかったことだろう。
長らく食パンと菓子パンが中心だった日本のパン事情も、徐々に様変わりする。

1970年(昭和45年)4月10日朝刊都民版に〈歩くアクセサリー? フランスパン “カッコいいもんね” 焼き上がり待って行列〉という記事がある。
〈フランスパンが売れている――このところ、都内のパン屋さんの店先で、ちょっとした異変が起きている。細長くて、カチカチのフランスパンがすごい売れ行きだ〉
料理研究家の江上トミさんは記事中で〈パンの味が、やっとわかってきたのでしょう〉と言いつつ、〈食べ方を知らない。バターをたくさんつけるなど、本場では“いなかもの”と笑われるんですが、日本ではねえ――〉と手厳しい。

その後も日本では様々な新しいパンが普及していく。1997年(平成9年)1月19日朝刊家庭とくらし面には〈世界の新顔続々 パンの“第3次ブーム”到来 素朴な味の主食用など人気〉との記事があり、イタリアのフォッカチャ、中東のピタ、ブラジルのポンデケージョ、アメリカのベーグルなどが日本で発売される様子が紹介されている。パン研究家の竹野豊子さんが〈主食用のパンはお米と同じだから素朴。しかし、各国で工夫されてきた食べ方は日本の消費者には珍しく、魅力的です〉と語っている。
そして「高級食パン」ブーム

そこから十数年。主食用のパンとして長らく親しまれてきた食パンにも高級ブームが起きる。2014年(平成26年)5月6日朝刊家計の知恵面に〈高級食パンでぜいたくな朝 厳選材料、こだわり製法〉という記事がある。〈原材料や製法にこだわった「高級食パン」が人気を集めている。コンビニエンスストアやパンメーカーが相次いで商品を発売している。ちょっとしたぜいたくな朝食を味わいたい人が買い求めているようだ〉
この記事では主に大手メーカーや流通の動向をとりあげていたが、高級食パン専門店もこの頃から増えた。2018年(平成30年)8月26日朝刊くらし家庭面に〈ふんわり しっとり 高級食パン 人気 素材・製法こだわり 各地に専門店〉が掲載されている。〈食パン専門店は2013年頃から、注目を集めるようになった。火付け役と言われるのが、大阪発の専門店「