[検証・万博の現在地 開幕まで1か月]<5>単独攻撃者の対策徹底…海外要人警護、予兆把握が鍵
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2023年4月13日、前首相の岸田文雄が出席した大阪・関西万博の起工式。この会場に「爆発物を持って向かった」と述べたのは、岸田らを襲撃したとして起訴された木村隆二(25)だった。今年2月の被告人質問で「岸田さんの近くに爆発物を投げるためだった」と明らかにした。だが、岸田の居場所がわからず断念。2日後に和歌山市の演説会場で事件を起こし、1審で懲役10年の判決を受けた。



昨年10月に東京・永田町の自民党本部前で火炎瓶を投げ、首相官邸の防護柵に車で突入したとして起訴された臼田敦伸(50)は事件前、木村のほか、元首相の安倍晋三に対する銃撃事件で起訴された山上徹也(44)の名前をインターネットで検索していた。いずれも一人で過激化してテロを起こす「ローン・オフェンダー(LO、単独の攻撃者)」だった。
万博には日本と158か国・地域が参加し、各国が自国の歴史・文化を発信する「ナショナルデー」も連日のように開催される。国内外から来場する要人(随行者を含む)は05年愛知万博の5589人を大幅に上回る見込みだ。大阪府警幹部は「世界の目が大阪に集まる。LOを含め、テロの矛先が大阪に向かう可能性は否定できない」と警戒する。
府警は捜査や地域巡回などで把握した不審者情報を警備部門に集約し、インターネット上の投稿にも目を光らせている。ただ、LOは準備から実行まで一人で行うため、事件の予兆をつかみにくい。警察幹部は「LOを見つけるのは砂漠から砂金を探すようなものだ。わずかな端緒から事件の未然防止につなげるしかない」と話す。
■ドローンを想定
会場では不審者の侵入を防ぐため、感知センサー付きのフェンス(高さ約3メートル)を設け、約600か所に防犯カメラを設置。入り口では金属探知機やX線装置を使って手荷物検査を実施する。場内では、日本国際博覧会協会(万博協会)の自主警備体制として設置する「協会警備隊」(約2000人)と、府警の「会場警察隊」(約250人)が連携して警戒警備にあたる。
舞台となる人工島・夢洲(大阪市此花区)は四方を海に囲まれ、視認性が良く、ドローンを使ったテロの懸念もある。府警は専門の対策部隊を編成し、飛行物の接近をレーダーで検知し、妨害電波を発して操縦不能にさせる「ジャミング装置」を夢洲周辺に配備した。府は周囲1キロでドローン飛行を禁止する条例を制定。大阪市も条例に基づくルールを変更し、周辺護岸への立ち入り禁止区域を拡大した。
■サイバー攻撃も
万博ではロシアが参加を取りやめた一方、侵略を受けているウクライナは参加を表明した。親ロシア系のハッカー集団によるサイバー攻撃も懸念される。
東京都内で「日ウクライナ経済復興推進会議」が開かれた昨年2月19日には、日本の政府機関などのサイトが大量のデータを送りつけてシステム障害を起こす「DDoS(ディードス)攻撃」を受けた。親ロシア系ハッカー集団がSNSで犯行声明を出した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席した23年5月の広島G7サミット(先進7か国首脳会議)でも広島市などのサイトが同様の被害に遭った。
万博は184日間にわたり、今夏に参院選も控える。開催期間中にはトランプ米大統領の来日も取り沙汰されており、府警幹部は「実現すれば最大限の警戒が必要だ」と気を引き締める。
日本大危機管理学部の福田充教授は、サミットとは異なり、重装備した警察官らを会場に配置しにくいことも踏まえ、「守り続けるのは容易ではない」と指摘。その上で「警備にほころびが出ないよう、緊張感を維持できるかどうかが重要だ。全国の警察と関係機関が連携してマンパワーを捻出する必要がある」と話している。(敬称略。桑原卓志、小川朝煕)(おわり)